暖かい部屋にて
今冬、初暖房。
部屋が暖かいと快適だ。
本を読むとき片手を股の間に入れる必要もなく、ノートパソコンも氷ではない。
私は暖房を使える人間なのだ。
私は寒ければ部屋を暖め、逆に暑ければアイスクリームを食べられる。
良い人生とは何だろう。
人が羨むような大金を稼ぎ、豪快に存在感を放つ人生にはもう諦めがついた。
実力不相応。
運不相応。
幸せを知ってみたいからと、脳に無理やり針を刺すような馬鹿な遊びはもう辞めたい。
熱した岩にスポイトで水を垂らし、あっという間に蒸発する毎日に辟易する。
私は暖房を使える。
不満を吐き出しながらも毎日通う職場があり、毎月の給料もある。
視界には人がいる。関わりを持つこともおそらく可能だろう。
部屋が暖かい。
この空間で3食ご飯を食べ、働きに出かけ、また帰る。
孤独に抗い、家庭に憧れ、足掻き、苦しみ、やっとの思いで手に入れて。
生物として生きた証を未来に残し、死んでいく。
こんな私も、普通の人生くらいには手が届くだろうか。
普通の人間には普通の幸せが身の丈にあっている。
そう思うことでしか、幸せになれないのだろう。
雲の上は地上から見えないのだ。